『利益相反防止へ監督制度(全国マンション問題研究会)』~区分所有法改正で意見書「第三者管理」で注文も~

投稿日:2023年05月01日 作成者:右田 順久 (1014 ヒット)

マンション管理問題に取り組む弁護士らで組織する全国マンション問題研究会(山上知裕代表幹事)は4月11日付で法務省民事局宛てに「区分所有法制の改正に関する意見書」を提出した。「管理費等債権を登記された抵当権者に優先させる」など6事項を、区分所有法見直しの中間試案策定段階で論点や問題意識として追加するよう要望した。
それ以外の事項は別途意見書を作成・提出する予定だ。

意見書で取り上げたのは、▽管理費等債権の優先化、▽管理費等債権放棄の明確化、▽管理組合法人の理事等資格の明記、▽区分所有者以外の者が管理者となる場合の監督制度、▽管理組合による専有部分の取得、▽区分所有者の「適正管理義務」の6事項。
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管理費等債権の優先化や放棄の明確化、管理組合による専有部分の取得は今年1月21日、横浜市で開いた同研究会でも報告している。「管理組合法人の理事等資格の明記」では「理事に法人がなれるとの解釈を法文上明らかにすべきである」と求めている。理由として「法人が管理組合法人の理事になることを制限する見解」が影響し法人化していない管理組合においても「法人が理事になれないとの解釈されることある」と指摘している。
「法人が区分所有者でありながら管理組合法人の理事に就任する機会を奪われるだけの合理的な理由はない」などとして、管理組合の法人化・非法人を問わず「政策的に禁止する理由はない」とした。「区分所有者以外の者が管理者となる場合の監督制度」では「管理組合法人と同じく監事の設置を義務化するなど、当該管理者の利益相反取引等を監督するための制度を検討すべきである」と訴えた。理由として管理会社が管理者に就任する「第三者管理」の増加を挙げている。
管理会社が管理者として行う管理委託契約締結といった自己契約や双方代理は管理組合の集会決議で「許諾し得る余地はある」としたが「管理の専門知識が疎い素人が区分所有者であることが通常」だとして「集会決議が管理会社の監督機能を十分に果たすとは言い難い」と指摘している。
また近時の管理会社による第三者管理では非理事会設置型が増加しているとして「管理会社が決めた方針が集会上程され集会決議が形骸化する傾向がより顕著である」とした。
管理会社以外でマンション管理士など専門家や区分所有者が管理者に就任するケースについても「利益相反の問題は生じ得るところ、それも含めた検討を排除する趣旨ではない」と言及している。「区分所有者の『適正管理義務』」は、法制審議会区分所有法制部会で議論されている「区分所有者の責務」について努力義務ではなく、「法的義務として適正に管理すべき『義務』を規定すべき」と求めている。理由としてタウンハウス」では雨漏りなど共用部分の劣化が他の区分所有者に影響が存在しない場合がある、などといった例を挙げ「共用部分に不具合があっても集会の決議がされず共用部分の維持・管理が行われないことがある」と指摘。
「適正管理義務」は原則「規約や集会の決議に基づく管理を実施すべき義務とし、例外として身体や財産への侵害が生じていたり、その恐れがあったりする場合に「保存行為を行うべき義務」と提案している。
専有部分・共用部分を対象にし、専有部分は当該区分所有者、共用部分は管理者か、管理者がいない場合は区分所有者全員とした。
保存行為では現行でも区分所有者が修繕したうえで費用を求償する方法はあるとしたが、具体的な適正管理義務にもとづく請求ができれば「区分所有者の団体を訴訟や交渉の土俵に乗せることができる」とし、請求の容認や交渉が成立すれば「区分所有者の団体による工事を実施することができる」とした。
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1月21日の全国マンション問題研究会で議論された「管理費等債権の優先化」では先取特権の順位を定めた区分所有法7条2項を改正するなどして「登記された抵当権者に優先させる立法が不可欠である」とした。同様に同研究会で議論した「管理費等債権放棄の明確化」では管理費等の放棄や手続きについて同法7条4項以下か新たに同条の2としての立法化を求めた。
具体的な条文として、➀規約もしくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について集会(普通)決議に基づき放棄することができる。②前項の決議について特別の利害関係を有する区分所有者は議決加わることができない、③第1項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げないーと示した。
「管理組合による専有部分の取得」も同研究会で議論した事項。管理組合等が目的の範囲内で取得することの明確化や手続きについての立法化を求めている。
立法に際し「多数決議によって専有部分を取得し得るという方向性での検討をおこなうべき」とした。
取得した専有部分の議決権の行使については「否定する方向で検討がおこなわれるべき」とし、また当該管理費は「管理組合が支出し管理組合がこれに対応する収入を得るという循環が生じるだけである」として「負担義務は端的に否定すべきである」とした。
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意見書の中身はNPO法人全国マンション管理組合連合会(全管連)が同日付で提出した要望書と重複する部分が少なくない。同研究会に参加する折田康宏弁護士は「全国マンション問題研究会と全管連は一体となって発展してきた経緯があり、今回も考えが一致している部分がある」と話す。

(マンション管理新聞:令和5年4月25日・5月5日合併号の記事より)


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